肝疾患研究部 論文紹介

B型肝炎、C型肝炎における免疫応答(総説)

Host-virus interactions in hepatitis B and hepatitis C infection
Sachiyo Yoshio and Tatsuya Kanto
J. Gastroenterol. 2016 Feb 19 [Epub ahead of print]

 B型、C型肝炎ウイルスは世界で5億人を超える感染者がいます。これらの肝炎ウイルスは肝臓に炎症をおこし、年月を経て肝硬変、肝がんを発症します。肝炎ウイルスはヒトの体内で生き延びるために、巧妙にヒトの免疫反応から逃れます。
 B型肝炎ウイルスは自然免疫のシステムを阻止することで、自然免疫応答が起きず、排除するためにはCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)を中心とする獲得免疫が重要であるとされています。Fisicaroらが肝炎を起こさずにウイルス排除に成功した症例でナチュラルキラー(NK)細胞(自然免疫)がkey playerであることを見出しました(文献1)。我々は、B型肝炎ウイルスの初感染時にNK細胞と樹状細胞(DC)(自然免疫)がウイルスを感知してindoleamine-2, 3-dioxygenase (IDO)を産生し、このIDOが抗ウイルス、肝保護の両面において重要な役割をすることを報告しました(文献2)。
 C型肝炎ウイルスの排除、治療効果にIL-28Bの遺伝子多型が強く関与していることを我々含め複数のグループが報告し(文献3)大きな注目を集めましたが、どうしてIL-28Bの遺伝子多型がウイルス排除に関与するのかということを含め、IL-28B遺伝子がコードするIFNλ3の機能に関してはまだ分からないことが多くあります。我々は、ヒトDCのサブセットの一つであるBDCA3+DCがHCVに反応してIFN-λを高産生することを見出しました(文献4)。BDCA3+DCはHCVワクチンの開発のkeyとなる可能性があります。
 この総説では、近年のB型、C型肝炎における免疫研究の近年の進歩に関して、自然免疫を中心に紹介しています。新しい免疫療法を開発する上で、ヒト臨床検体を用いた包括的な研究がますます重要性を増してくると我々は考えています。

(引用文献)
  1. Fisicaro P, Valdatta C, Boni C, et al. Early kinetics of innate and adaptive immune responses during hepatitis B virus infection. Gut 2009;58:974-82.
  2. Yoshio S, Sugiyama M, Mizokami M, Kanto T , et al. Indoleamine-2, 3-dioxygenase as an effector and an indicator of protective immune responses in patients with acute hepatitis B. Hepatology 2016; 63: 83-94
  3. Tanaka Y, Nishida N, Sugiyama M, Mizokami M, et al. Genome-wide association of IL28B with response to pegylated interferon-alpha and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Nat Genet 2009; 41:1105-9
  4. Yoshio S, Sugiyama M, Mizokami M, Kanto T, et al. Human blood dendritic cell antigen 3 (BDCA3)(+) dendritic cells are a potent producer of interferon-lambda in response to hepatitis C virus. Hepatology 2013;57:1705-15.
(図)肝炎ウイルス感染における初期免疫応答
左図:B型肝炎ウイルス
ケモカインCXCL9,CXCL10,CXCL11 ((1))により, 肝臓に集積したNK細胞と樹状細胞((2))がIFN-γ/IFN-αを産生し((3))、 IDOが肝細胞に誘導されて((4))、肝細胞内のHBVを非細胞傷害性に排除する。
右図:C型肝炎感染ウイルス
肝細胞、肝臓内の樹状細胞が産生するインターフェロン(IFN)により肝臓内にインターフェロン応答因子(ISG)が誘導され、HCVを排除する。BDCA3+DCはIFN-λ、pDCはIFN-αを産生する。
由雄 祥代

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