肝代謝・発がんグループ

<研究背景>

 研究の進歩により、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)は経口薬で治療が 出来るようになりました。特にHCVでは一定期間内服するだけで、ウイルス排除が可能と なり、肝がんの患者さんの約70%にHCVが感染していたことから鑑みると、肝がんが今 後減少すると予想されています。
 一方で、HCV排除10年以上経過後に肝がんが見つかる、またHBV,HCVに感染していなくても肝硬変・肝がんへと進行する患者さんが増加しています。原因は良く解明されていませんが、飲酒以外にも肥満(脂肪肝)、2型糖尿病といった生活習慣病を合併している高齢者に多いとされています。  われわれの研究テーマは、多くの生活習慣病の患者さんから肝硬変・肝がんへと進んでしまう患者さんを絞り込む血液マーカーを出来るだけ早く臨床現場に提供しつつやその機序を基礎的に解明することを目標としており、以下の4つのprojectに大きく分かれています。

肝炎ウイルス非感染者の肝発がんマーカーの開発(project 1)

 肝炎・免疫研究センターでは、国内に問わず、海外から多くの症例のsample(血清、ゲノム)が集約されています。われわれは2型糖尿病症例で、肝硬変・肝がんになった患者さんと 2型糖尿病治療歴が長く、高齢の肝機能正常の患者さんを比較することで候補遺伝子を探索しています。この検討により、肝線維化や肝がん発症に関与する候補遺伝子が見つけられています。

非侵襲的肝線維化評価法の開発(project 2)

 肝臓が硬くなるとHBV,HCVの存在に関わらず肝発がんは多くなります。その判定は「肝生検」という侵襲的な手技を伴います。肝炎・免疫研究センターでは産業技術総合研究所(産総研)の成松先生と共同研究を行い、肝病態進行に伴う糖鎖修飾を解析することで、少量の血液より鋭敏な肝病態進行マーカー開発に取り組み、「M2BPGi」という線維化マーカーの保険収載を現実化し、更なる新規マーカーについて検討しています。(https://unit.aist.go.jp/gtrc/hepatitis-pi/jp/index_hptts.html)
 また併設する国府台病院で、腹部超音波機器を用いた2種類(VTQ, FibroScan)の肝硬度測定により、生活習慣病合併者の肝線維化評価方法を検討しています。また本邦では数台しか導入されておらず、肥満症例に有効な肝硬度測定プローブ(XL probe)の有効利用方法も解析中です。

肝発がん機序とミトコンドリア機能解析(project 3)

 肝がんは一度発症すると、再発を繰り返すため「発がん機序を解明し、診断マーカーと創薬シーズを開発すること」が重要です。われわれは、此までHCVの発がん機序の一つとして肝ミトコンドリア機能障害が誘導する酸化ストレスの蓄積が重要であることを報告しています。ミトコンドリアは代謝機能の中心であり、その異常は多くの生活習慣病増悪に関与する可能性があります。即効性のある研究ではありませんが、脂肪肝マウスモデル(C57BL/6N・STAMRマウス)を用いて、その機能のみならずゲノム・エピゲノム解析を行っています。また(1)で見つかった候補遺伝子と肝発がん機序の解明にも着手しています。

肝炎ウイルス診断マーカー開発(project 4)

 前述した様にHBV,HCVは経口薬で治療control可能となりましたが、新たな問題があります。効果上昇に伴う薬剤耐性変異株出現、HBV既往感染者からの再活性化に対する対策は、研究優先というよりも、有効な判定法を出来るだけ早期に医療関係者また患者さんにreal-timeに提供することもわれわれの使命の一つです。高感度なウイルス変異定量系・薬剤耐性変異株測定系開発を行い、その結果を臨床現場にfeedbackしています。また併設する肝炎情報センターと全国70施設ある拠点病院と共同で、肝炎検査勧奨システム開発やfollow up体制確立を目指しています。

<本研究に関する代表的文献>

1. Korenaga M, Nishina S, et al. Branched-chain amino acids reduce hepatic iron accumulation and oxidative stress in hepatitis C virus polyprotein-expressing mice.
Liver Int. 2015 Apr;35(4):1303-14
2. Yamasaki K, Tateyama M, et al. Elevated serum levels of Wisteria floribunda agglutinin-positive human Mac-2 binding protein predict the development of hepatocellular carcinoma in hepatitis C patients.
Hepatology. 2014 Nov;60(5):1563-70
3. Korenaga K, Korenaga M, et al. Usefulness of Sonazoid contrast-enhanced ultrasonography for hepatocellular carcinoma: comparison with pathological diagnosis and superparamagnetic iron oxide magnetic resonance images. J Gastroenterol. 2009;44(7):733-41
4. Ando M, Korenaga M, et al. Mitochondrial electron transport inhibition in full genomic hepatitis C virus replicon cells is restored by reducing viral replication. Liver Int. 2008 Sep;28(8):1158-66
5. Korenaga M, Wang T, Li Y, et al. Hepatitis C virus core protein inhibits mitochondrial electron transport and increases reactive oxygen species (ROS) production. J Biol Chem. 2005
6. Otani K, Korenaga M, et al. Hepatitis C virus core protein, cytochrome P450 2E1, and alcohol produce combined mitochondrial injury and cytotoxicity in hepatoma cells. Gastroenterology. 2005 Jan;128(1):96-107

(問合せ)
研究内容や見学について問合せは右記までお願いします。 dmkorenaga@hospk.ncgm.go.jp  是永匡紹

文責 : 是永 匡紹

国立国際医療研究センター
肝炎・免疫研究センター
肝疾患研究部

〒272-8516 千葉県市川市国府台1-7-1
電話番号 047-372-3501/FAX 047-375-4766