肝疾患研究部 論文紹介

非侵襲的な肝線維化評価法Virtual Touch Quantification・フィブロスキャン M・XL プローブの皮膚-肝表距離による使い分け

Appropriate Use of Virtual Touch Quantification and FibroScan® M and XL Probes According to the Skin Capsular Distance
Erina Kumagai, Keiko Korenaga, Masaaki Korenaga, Masatoshi Imamura, Misuzu Ueyama, Yoshihiko Aoki, Masaya Sugiyama, Kazumoto Murata, Naohiko Masaki, Tatsuya Kanto, Masashi Mizokami,Sumio Watanabe
Journal of Gastroenterology

研究の背景

 従来、肝線維化の評価は肝生検が標準とされてきました。しかし、肝生検は侵襲的で出血などの合併症を伴う可能性があり、また病理医により評価が異なるという問題点も指摘されています。肝生検の代替として、多種の非侵襲的な肝線維化評価法が開発されつつあります。肝硬度のためのエラストグラフィー*1の中ではフィブロスキャン*2に次いで、Virtual Touch Quantification (VTQ)*3が普及しており、これらは痛みを感じることなく、短時間(数分)の間に測定が終了し、客観的な数値として結果が得られる長所があります。ただし、全例に有効なわけではなく、肥満などのために測定不能・困難例が存在するという欠点があります。そのため、標準仕様であるフィブロスキャンMプローブ*4のほかに、肥満者測定用としてXLプローブ*5が開発され、欧米でその有用性が報告されています。しかし、欧米と比較して小柄な日本人におけるXLプローブの有用性を検討した報告は未だなく、また普及機であるフィブロスキャン M プローブ、VTQと同時に比較を行った研究は過去にありません。本研究では、肝硬度の測定信頼性(測定成功率・各測定のバラつき度合い)に焦点を当て、フィブロスキャン M・XLプローブ・VTQの3種類の機種を比較しました。

研究の内容

 慢性肝疾患664名(C型慢性肝炎27%, B型慢性肝炎 12%,脂肪性肝疾患48%,その他 21%)を対象にVTQ・フィブロスキャン M・XLプローブで同時測定を行い、その測定信頼性を比較しました。 測定はVTQ・フィブロスキャン M・XL プローブすべて右肋間の同一部位より行い、それぞれ10回以上測定し、中央値を結果としました。測定成功率が60%未満かつ/またはIQR(四方分位)/Med(中央値)*6が30%以上となる場合をinadequate(信頼できない測定)と定義し、inadequate率(=信頼できない測定の割合)を算出し、3種の機種を比較しました。

結果

 全症例(664例)における測定のinadequate率は、フィブロスキャン Mプローブで23.0%、XLプローブ22.3%、VTQで21.8%と3種の機種間で差異はありませんでした。多変量解析から、inadequate率に最も影響する因子は、VTQ・フィブロスキャン Mプローブにおいては「皮膚-肝表距離」であることが明らかになりましたが、フィブロスキャン XLプローブでは同因子の影響はありませんでした。 次に、皮膚-肝表距離別に全症例を6グループに分けて検討すると、皮膚肝表距離が22.5mm以上の症例では、フィブロスキャン Mプローブ・VTQのinadequate率が、XL プローブに有意差をもって高くなることが確認されました。一方、皮膚-肝表距離が17.5mm未満ではVTQ のinadequate率がXLプローブに比較して有意に低くなることが明らかになりました。17.5mm以上22.5mm未満のグループでは3種の機種の間にinadequate率 に有意差はありませんでした。

まとめ

 正確な肝硬度測定のためには、皮膚-肝表距離長に応じて、肝エラストグラフィーの機種を使い分けることが必要であると考えられます。

用語解説

*1 エラストグラフィー:非侵襲的に肝臓の硬さ(肝硬度)を測定することにより、肝線維化の程度診断する方法。
*2 フィブロスキャン:超音波を利用したエラストグラフィーの一種。物理的な振動によって剪断弾性波を発生させ、その伝播速度によって肝硬度を計測する。
*3 Virtual Touch Quantification:超音波を利用したエラストグラフィーの一種。音響放射圧によって剪断弾性波を発生させ、その伝播速度によって組織硬度を計測する。
*4 M プローブ:フィブロスキャンで標準的に使用されるプローブ。測定深度は皮膚より25-65mm深い場所。
*5 XLプローブ:肥満者測定用に開発されたプローブ。測定深度はMプローブより1cm深い35-75mm。
*6 IQR/med (四方分位/中央値):IQR/medが30%を超える場合は、各測定値のバラつきが大きく、信頼に足らない測定とみなされる。

 
VTQ
フィブロスキャン
励振法
超音波の放射圧(ARFI)によって 「せん断波」を発生させる=音響的加圧 体外から振動を加えて、 「せん断波」を発生させる=機械的加圧
イメージ
測定単位
剪断弾性波の速さVs (m/s) 硬度(kPa) E=αx Vs2
保険適応
なし あり (200点)
特 徴
通常の超音波検査装置に搭載
測定場所を超音波画像で確認できる
腹水・肥満症例も測定可能なことが多い
測定値の表現幅が狭い
肝硬度測定専用
測定場所を画像で確認できない
腹水・高度肥満症例は測定困難
肝エラストグラフィーの先駆け
多国多施設でのデータ蓄積が豊富
熊谷 恵里奈 / 是永 圭子

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