肝疾患研究部 論文紹介

血清YKL-40値は非アルコール性脂肪性肝疾患の有用な線維化診断マーカーである

Serum YKL-40 as a marker of liver fibrosis in patients with non-alcoholic fatty liver disease
ErinaKumagai, Yohei Mano, Sachiyo Yoshio, Hirotaka Shoji, Masaya Sugiyama, Masaaki Korenaga, Tsuyoshi Ishida, Taeang Arai, Norio Itokawa, Masanori Atsukawa, Hideyuki Hyogo, Kazuaki Chayama, TomohikoOhashi, Kiyoaki Ito, Masashi Yoneda, Takumi Kawaguchi, TakujiTorimura, Yuichi Nozaki, Sumio Watanabe, Masashi Mizokami and Tatsuya Kanto
Sci Rep. 2016 Oct 14;6:35282.

研究の背景

 非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease ; NAFLD)*1は慢性肝障害の原因として最も多く、またNAFLDのうち約20%は非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis ; NASH)*2と呼ばれる線維化や壊死・炎症を伴う病態に発展し、肝細胞癌のリスクが高まるとされています。線維化診断には肝生検*3が必要ですが、肝生検はリスクが高く、また診断も困難なため、新たな線維化診断の指標が必要とされています。
 YKL-40*4は多様な炎症性疾患で血清中の値が上昇することが知られています。またC型・B型慢性肝炎では血清YKL-40の値が線維化の進行の指標となることが知られています。今回、血清YKL-40値がNAFLDの線維化診断マーカーとなるかということ、またYKL-40が肝臓内のどの細胞から分泌されているかを明らかにする目的で研究を行いました 。

研究の内容

 111名のNAFLD患者さんおよび、19名の健康成人の血清中のYKL-40値を測定しました。またNAFLD患者さんの肝組織の免疫染色を行いました。 血清YKL-40値は線維化が進行するにしたがって上昇しました(図1)

(図1)

 また、YKL-40は既存のマーカーである血清Type IV collagen 7s*5値とともに、線維化の軽度なNAFLD患者さん(Fibrosis stage 0-2)と線維化の高度なNAFLD患者さん(Fibrosis stage 3-4)を判別する因子となりました。さらに、血清YKL-40値とType IV collagen 7s値を用いた重回帰式YKL-40 based fibrosis score (YKL-40 FS) = -0.0545+ type IV collagen 7s * 0.3456 + YKL-40 * 0.0024を用いると、それぞれ単独の場合よりも線維化の高度なNAFLDの判別能がより高まりました(表1, 図2)

(表1)

(図2)

 高度肝線維化をきたした患者さんの肝組織で免疫二重蛍光染色を行いました。
 YKL-40を赤色、CD68 (マクロファージのマーカー) を緑色で標識しています。YKL-40とCD68を同時に発現している細胞は黄色で示され、YKL-40がマクロファージにより発現されていることがわかりました (図3a) 。また線維化が軽度のNAFLD (Fibrosis stage0-2)と線維化が高度なNAFLD (Fibrosis stage3-4) の肝組織をCD68で染色し、組織中のマクロファージの数を評価したところ、線維化が進行したNAFLDでより多くのマクロファージが存在することが示唆されました(図3b)。つまり、YKL-40を産生するマクロファージが肝臓の線維化に従って増大することにより、肝線維化を伴ったNAFLD患者さんの血液でYKL-40が上昇していることが示唆されました。

(図3a)

(図3b)

 23名の肝細胞癌患者さんでも、YKL-40の値を検討したところ、NAFLDの非肝硬変(Fibrosis stage0-3)の患者さんにおいては、肝細胞癌がある患者さんでは肝細胞癌がない患者さんに比較して有意にYKL-40の値が高値であることがわかりました(図4a)。肝細胞癌のある患者さんでも蛍光2重免疫染色を行ったところ、YKL-40が腫瘍辺縁のマクロファージにより発現されていることがわかりました(図4b)

(図4a)

(図4b)

まとめ

 本研究では血清YKL-40がNAFLD患者さんの肝線維化診断マーカーとなること、またNAFLDにおける肝細胞発がんのリスクの指標となる可能性が示唆されました。

用語解説

*1.NAFLD:組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害などの他の肝疾患を除外した病態です。
*2. NASH:NAFLDの中でも、組織診断で線維化や風船様肝細胞などを伴う病態です。
*3. 肝生検:肝臓に針を刺して肝組織を採取し、病理学的な診断に用います。肝組織を直接観察できるため肝線維化のステージ診断にもっとも適した検査法といえますが、患者さんへの負担も大きいため、すべての患者さんに実施できる検査法ではありません。
*4. YKL-40:1993年に関節軟骨と滑膜細胞から分泌される蛋白として発見されました。 その後、マクロファージのほか神経細胞・気管上皮細胞・各種癌細胞から産生されることが報告されています。炎症性疾患や各種固形がんなどで上昇することが報告されています。
*5. Type IV collagen 7s:基底膜の主要構成成分であるIV型コラーゲン分子のN末端の7S領域です。肝線維化がおきると肝組織のコラーゲンより一部分離され血中に放出されます。現在、肝線維化の指標として臨床的に利用されています。

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