肝疾患研究部 論文紹介

Tie2陽性単球(TEM)は切除不能進行肝がん患者におけるソラフェニブ治療効果に寄与する

Pro-angiogenic TIE-2-expressing monocytes / TEMs as a biomarker of the effect of sorafenib in patients with advanced hepatocellular carcinoma
Hirotaka Shoji, Sachiyo Yoshio, Yohei Mano, Hiroyoshi Doi, Masaya Sugiyama, Yosuke Osawa, Kiminori Kimura, Taeang Arai, Norio Itokawa, Masanori Atsukawa, Yoshihiko Aoki, Moto Fukai, Akinobu Taketomi, Masashi Mizokami and Tatsuya Kanto
International Journal of Cancer 2017 Sep 1;141(5):1011-1017

研究の背景

 ソラフェニブ*1治療は切除不能肝細胞癌患者にとって唯一の治療法ですが、副作用による中止例が多く、治療継続症例においても奏効率が低いことが問題です。われわれは、Tie2陽性単球(Tie-2-expressing monocyte:TEM)は肝癌における血管新生を反映し、肝癌の診断・再発予測に有用であることを以前に報告しました(図1、図2)。そこで、今回ソラフェニブ治療により生存期間の延長が期待できる症例を判別することを目指して、TEMの治療効果関連因子としての有用性を検討しました。

図1) Tie2陽性単球(TEM)の同定
1 2

図2) 肝がん患者においてTEM頻度は高値であり、再発予測因子である
1

研究の内容

 切除不能肝細胞がん患者25例を対象としました(前向きパイロット試験*2)。治療開始直前、治療開始1か月後に、末梢血TEM頻度を調べました。また、血清中の血管新生関連因子(VEGF,アンギオポエチン, 可溶性Tie-2*3)と臨床病理学的因子も同時に解析しました。治療1−3か月後にCT/MRIによる効果判定を行いました(mRECIST基準*4) (図3)。

図3) 研究プロトコール
1


その結果、
生存期間中央値は治療奏功群 (PR/SD*5)において、非奏功群(PD*5)よりも有意に長いことが示されました(図4)。
PR/SD群:21.8か月
PD群:8.7か月

図4) 治療効果(PR/SD vs PD)と全生存率
1

PD群では治療前と比較して治療1か月後にTEM頻度が増加、一方PR/SD群では低下しました(TEM変化量:2.1% vs -1.4%、p=0.01) (図5)。

図5) 治療効果(PR/SD vs PD)とTEM頻度
1

TEM頻度低下群では、上昇群と比較して有意に生存期間中央値が長いことが示されました(14.2ヶ月vs 8.7ヶ月、P=0.02)(図6)。

図6) TEM頻度と全生存率
1

単変量、多変量解析の結果、TEM変化量とChild-Pugh分類は独立したOS(全生存率)寄与因子であることが明らかとなりました(TEM変化量:HR =8.53, 95% CI = 1.51- 48.16, P = 0.015) (表1)。

表1) 全生存率に影響を与える因子についての単変量・多変量解析
1

まとめ

 本研究により切除不能肝細胞癌患者におけるソラフェニブの治療効果予測にTEM頻度が有用な診断マーカーとなる可能性が示唆されました。

用語解説

*1. ソラフェニブ:分子標的治療薬(マルチキナーゼ阻害剤)であり、大規模第III相試験(SHARP試験, Asia-Pacific試験)において切除不能肝がん患者における延命効果が証明されています。手足症候群、下痢、肝障害、発疹・皮疹などの副作用が治療継続の妨げとなることが多くあります。投与量は、1日800mgが規定量ですが、患者さんの状態により400mgで開始することも多く、本検討では全症例が400mgでの投与でした。
*2. パイロット試験: 本格的に検証する大規模試験の前に、大規模試験の実現可能性を検討するために行う小規模試験を指します。
*3. 可溶性Tie-2: 細胞表面にあるTIE2がVEGFなどの刺激によりsheddingされて(細胞表面からはずれて)、血清中に可溶性タンパクとして存在するものを指します。
*4. mRECIST基準:腫瘍縮小効果に基づき判定するRECIST基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors,固形がんに対して抗がん剤治療の効き目を評価する世界統一基準)に、腫瘍壊死による血流低下を判定基準に加えた基準をmodified RECIST(mRECIST)と呼び、肝細胞癌治療効果判定基準として普及しています。CT,MRIで評価をします。
*5. PR,SD,PD: 抗がん剤の効果を示すmRECIST判定は下記のようになっています。
CR :Complete Response、すべての標的病変の腫瘍濃染の消失
PR : Partial Response、標的病変のviable lesion(腫瘍細胞が生存可能でかつ増殖しうると判断される状態)の大きさの和がベースラインと比較して30%以上減少
SD : Stable Disease 、経過中最小の大きさと比較して、PR, PDに相当する縮小、増大がない
PD : Progressive Disease、標的病変のviable lesionの大きさの和が経過中の最小の大きさに対して20%以上増加

(文責:由雄祥代)

国立国際医療研究センター
肝炎・免疫研究センター
肝疾患研究部

〒272-8516 千葉県市川市国府台1-7-1
TEL 047-372-3501/FAX 047-375-4766