肝疾患研究部 論文紹介

肝細胞癌の線維芽細胞は、BMP4によって癌を促進するフェノタイプに誘導される

Yohei Mano*, Sachiyo Yoshio*, Hirotaka Shoji, Shimagaki Tomonari, Yoshihiko Aoki, Nobuyoshi Aoyanagi, Toru Okamoto, Yoshiharu Matsuura, Yosuke Osawa, Kiminori Kimura, Kyohei Yugawa, Huanlin Wang, Yoshinao Oda, Tomoharu Yoshizumi, Yoshihiko Maehara, and Tatsuya Kanto.

J Gastroenterol. 2019 Apr 2. doi: 10.1007/s00535-019-01579-5.

1.研究の背景

現在、慢性炎症に起因する肝線維化進展は、肝星細胞と肝線維芽細胞が重要な役割を果たしていると考えられています。肝臓内の慢性炎症においては、これらのような線維芽細胞や免疫細胞の相互作用によって、肝発癌や癌の進展に有利な微小環境が形成されていくと考えられています。そこで、本研究では、ヒトの肝組織から分離培養した細胞を用いたin vitro実験モデル(線維芽細胞)を構築し、それぞれの相互作用を様々な角度から分析、それぞれの責任分子を明らかにすることが可能ではないかという着想に至り、肝癌の癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblast, CAF)が、癌微小環境において免疫細胞にどのような影響を及ぼし、癌に有利な働きをしているかを明らかにし、新たな治療ターゲットを探索することとしました。

2.研究成果

肝癌で手術を施行された患者さんの癌組織からCAFを、非癌部の肝組織から非癌部組織の線維芽細胞(Non-cancerous liver fibroblast, NF)を分離した。CAFとNFの産生タンパクを比較したところ、CAFにおいてvimentin*1、αSMA*2、ACTA2*3、COLA1*4、IL-6*5、IL-8*6などの発現が増加していることが分かりました(図1A-C)。CAFとNFの培養上清で肝癌細胞株を刺激したところ、CAFの培養上清による刺激で、癌細胞の増殖と浸潤がより促進されました(図1D,E)。浸潤については、IL-6等のサイトカインの中和により抑制されました(図1F)。

(図1) NFとCAFの分離培養と発現タンパク・発現遺伝子の比較

CAFとNFの発現遺伝子の網羅的解析を行ったところ、BMP4*7がCAFで発現が上昇しており、我々が分離した細胞においても、CAFにおいてBMP4の発現が増加していました(図2A,B)。


(図2)NFに比べてCAFにおけるBMP4発現の比較



NFにおいて、BMP4を強制発現したところ、ACTA2、COLA1、IL-6、IL-8の発現が上昇し(図3A-C)、逆にCAFのBMP4発現を抑制したところ、それらの発 現は低下しました(図3D-F)。

(図3)BMP4強制発現、発現制御による線維芽細胞の活性コントロール

 

本研究により、CAFの活性化はBMP4の発現によりコントロールされていることが明らかとなりました。この発見は、肝癌治療の新たな治療法の開発に影響を与えるものと考えております。
間野 洋平/由雄 祥代

用語解説

*1. vimentin:間葉系細胞に特有の中間径フィラメントで、線維芽細胞の主要な細胞骨格蛋白の一つである。
*2. αSMA:主に血管平滑筋で発現され、線維芽細胞においては活性化マーカーとして考えられている。
*3. ACTA2:αSMAの遺伝子名。
*4. COLA1:Collagen Iの遺伝子名。線維芽細胞の活性化による発現が増加すると考えられている。
*5. IL-6:T細胞やマクロファージにより産生されるサイトカインであり、免疫細胞の遊走や活性化を促す。
*6. IL-8:マクロファージ、上皮細胞、気道平滑筋細胞および血管内皮細胞が産生するケモカインで、白血球遊走因子の一つである。
*7. BMP4:主に骨や軟骨の発生や維持に作用し、様々な骨の疾患とも関連があることが知られている。

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