肝疾患研究部 論文紹介

非アルコール性脂肪性肝疾患において
interleukin-34(IL-34)は肝線維化ステージ診断に
有用である

Interleukin-34 as a fibroblast-derived marker of liver fibrosis in patients with non-alcoholic fatty liver disease
Hirotaka Shoji, Sachiyo Yoshio, Yohei Mano, Erina Kumagai, Masaya Sugiyama, Masaaki Korenaga, Taeang Arai, Norio Itokawa, Masanori Atsukawa, Hiroshi Aikata, Hideyuki Hyogo, Kazuaki Chayama, Tomohiko Ohashi, Kiyoaki Ito, Masashi Yoneda, Yuichi Nozaki, Takumi Kawaguchi, Takuji Torimura, Masanori Abe, Yoichi Hiasa, Moto Fukai, Toshiya Kamiyama, Akinobu Taketomi, Masashi Mizokami and Tatsuya Kanto
Scientific Reports, Jul 1;6:28814. doi: 10.1038/srep28814.

研究の背景

 非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease; NAFLD)*1は近年増加傾向にある疾患です。NAFLDはウイルス性肝疾患と同様に、進行性に肝臓の線維化をきたし(肝線維化)、発癌リスクを上昇させることが報告されています。発がんリスクの評価のためにも肝線維化の程度(ステージ)を正確に診断することは重要です。肝線維化の診断法として、現在確立されているのは肝生検*2であり、非侵襲的に肝線維化のステージを診断することができるマーカーが実臨床で切望されています。

 肝臓のマクロファージ(クッパー細胞)が産生する因子により肝星細胞が活性化されることが、主な肝線維化の機序として考えられています。近年、Interleukin-34(IL-34)が単球やマクロファージの生存、増殖、分化を促進する分子として同定されました。そこで、血中のIL-34がNAFLD患者における肝線維化診断に有用であるかを検討しました。

研究の内容

 肝生検によって肝線維化のステージ診断が行われた197名(Stage0-1:80名、Stage2:46名、Stage3:41名、Stage4:30名)と健常者20名を対象とし、IL-34、M-CSF*3、sCD163*4、40項目のサイトカイン/ケモカインの血中濃度(血清濃度)を調べました。M-CSF、sCD163、MIP-3α/CCL20*5は高度に肝線維化をきたした症例で高値となっていましたが、IL-34は肝臓の線維化の進行とともに上昇していました(図1)

(図1)血清IL-34, M-CSF, sCD163, MIP-3α/CCL20の比較

 次にIL-34の線維化を判別する能力(線維化判別能)を検討しました。IL-34は単独でも優れた線維化判別能を有しましたが、Type IV collagen 7s*6, 年齢を加えた重回帰式:IL-34 fibrosis score (IL34-FS) = 0.0387*IL-34(pg/ml)+0.3623*type IV collagen 7s(ng/ml)+0.0184*age(year)は既存の肝線維化マーカーよりも優れた線維化判別能を有しました(図2)

(図2)Stage4診断におけるROC curve

 Receiver operating characteristic (ROC)解析を行い各因子の肝線維化ステージ診断能を比較しました。IL-34(図2-Aの黒点線)は単独でも優れた肝線維化判別能を有していました。しかしIL34-FS(赤線)は既存の線維化マーカーであるヒアルロン酸(Hyaluronic acid), Type IV collagen 7s,APRI, FIB-4 index, NAFLD fibrosis score:NFSよりも優れていました。

(図3)
 

 

肝組織の免疫染色の結果、NAFLD患者の肝臓におけるIL-34の主な産生細胞は線維芽細胞でした(図3)


 高度肝線維化をきたしたNAFLD患者さんの肝切除標本を用いて2重免疫蛍光染色を行いました。IL-34の発現細胞を緑色、a-SMA(線維芽細胞のマーカー)の発現細胞を赤色、核を青色で標識しています。IL-34,a-SMAを同時に発現する細胞は黄色で標識されます。IL-34を発現している細胞の多くはa-SMAを発現していました。この結果から、IL-34の主産生細胞は肝線維芽細胞であることが示唆されました。

まとめ

 本研究によりNAFLD患者さんにおいて、IL-34が有用な肝線維化ステージ診断マーカーとなることが示唆されました。

用語解説

*1.NAFLD:組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害などの他の肝疾患を除外した病態です。
*2. 肝生検:肝臓に針を刺して肝組織を採取し、病理学的な診断に用います。肝組織を直接観察できるため肝線維化のステージ診断にもっとも適した検査法といえますが、患者さんへの負担も大きいため、すべての患者さんに実施できる検査法ではありません。
*3. macrophage colony stimulating factor (M-CSF):単球、マクロファージに作用して、その増殖分化を刺激する造血系サイトカインの一種です。
*4. soluble CD163 (sCD163):CD163は成熟したマクロファージと末梢血中の単球に発現している受容体です。炎症反応によりマクロファージが活性化するとCD163が細胞から分離され、soluble CD163 (sCD163)として血中に放出されます。
*5. macrophage inflammatory protein-3 alpha/chemokine ligand 20(MIP-3α/CCL20):上皮細胞やマクロファージから産生されるケモカインの一種です。リンパ球の遊走に寄与します。
*6. Type IV collagen 7s:基底膜の主要構成成分であるIV型コラーゲン分子のN末端の7S領域です。肝線維化がおきると肝組織のコラーゲンより一部分離され血中に放出されます。現在、肝線維化の指標として臨床的に利用されています。

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